「恋愛弱者」の中年独身男性が増え続ける残酷な原因

新しい扉

「働きアリの法則」というものがあります。  

これは、アリの集団を「よく働く・普通に働く・働かない」に分類したときに、よく働くアリが2割、普通に働くアリが6割、働かないアリが2割に分かれるという研究に基づくもので、別名「 2:6:2の法則」とも呼ばれます。 【画像】「恋人のいる率」で男女に差  この法則のおもしろいのは、たとえ「上位2割の働くアリ」だけを取り出してグループ化しても、その2割の中で従前のように2:6:2に分かれてしまうというところです。逆に、働かない2割の下位群だけを抽出しても、その中から働く2割が生じるということでもあります。

■変わらない「恋愛強者3割の法則」  同様のことは、人間の恋愛においても再現されます。  

私は、以前より「恋愛強者3割の法則」と言っていますが、いつの時代でも、どこの地域でも、何の集団であっても、恋愛においてモテる層というのは大体3割程度であるというものです。厳密にいえば、恋愛強者3割、中間層4割、恋愛弱者3割と3:4:3に分かれます。  

テレビのニュースなどではよく「若者の恋愛離れ」や「草食化」などと言われます。その際に、必ず街頭インタビューの映像を差し込んで、中高年者が「最近の若者は意気地がないね。俺の若い頃は……」と流し、さも昔は「若者の恋愛意欲が旺盛だった」かのような演出を入れたがります。もちろん、回答した人が恋愛力の高い人だった場合もあるでしょうが、少なくとも今も40年前の若者も恋愛している割合は大差ありません。

 それは、出生動向基本調査で、1982年から2021年までの約40年間の18-34歳独身男女の「恋人がいる率」の推移を見ても明らかです。  

最新の2021年での「恋人がいる率」は、男性が21.1%ですが、40年前の1982年も男性21.9%でほとんど変わっていません。2005年頃27.1%とピークを記録しますが、40年間で見た場合、大体3割弱となります。女性も同様で、1982年女性23.9%から2002年に37.1%に上昇しましたが、2021年には27.8%に落ち着いています。男女総合すれば、恋人がいる割合というのは大体3割であると言えます。

これに対して、1980年代は「友達として交際している割合」も付加すれば以前はもっと異性との交際率は高かったなどという反論があるのですが、友達はあくまで友達に過ぎず、恋愛関係に換算するのはいかがなものかと思います。たとえば、異性に告白して「お友達でいましょう」と言われたら、それは「あなたとの恋愛はお断り」の意味でしかありません。 ■「恋愛強者は3割」となる理由  ところで、なぜいつも「恋愛強者は3割」になるのでしょうか? 

 それは恋愛が相対的なものだからです。普遍的、絶対的にモテる人間というものが存在するわけではなく、その時代背景や属する集団の中において、その時々の環境に応じて上位3割がモテるという位置を獲得するに過ぎないのです。  男性でいえば、小学生は「足の速い子」、中学生は「チョイ不良な子」、高校では「部活のスター」、大学では「コミュ力のある子」、社会人になると「収入の高さ」へと遷移するようなものです。  

興味深いのは、冒頭に述べた「働きアリの法則」と同様ですが、個人の能力の問題ではなく、置かれた環境の中で相対的に「モテる・モテない」が決まることです。仮に、クラスの中でモテる3割の男子が全員転校してしまったとしたら、残った7割の中から上位3割のモテる子が生じます。

 したがって、いつの時代も3割しか恋愛強者がいないのに、なぜ1980年代までは皆婚できたのか? 

という疑問が払拭できます。彼女・彼氏のいる恋愛強者から結婚していけば、当然残された7割が恋愛強者へと相対的に格上げされていくからです。恋愛強者が早々に既婚者となってくれればくれるほど、残りの7割にチャンスが巡ってくるわけです。  反対に、この恋愛強者の3割がいつまでも結婚せずに独身のままで、恋愛市場から脱退しないとどうなるでしょう。7割は7割のまま取り残されることになります。

 今、日本で起きている婚姻減少とは、この「恋愛強者3割の居座り」による影響があります。

■「恋人のいる率」で男女差がある背景  

前掲した「恋人のいる率」の男女推移を再度確認すると、1980年代は別にして1992年以降、男女の差分が10%ポイントもあります。対象が18-34歳なので、35歳以上の年上と付き合っている女性、18歳未満の年下と付き合っている男性もいるかもしれませんが、それだけではこれほどの差は出ません。

10%差の半分は、男女出生性比の差です。そもそも出生する割合は女児100に対して、男児は105生まれてきます。医療の発達した現代では、生まれた子はほぼそのまま成人しますので、5%の差があるのは仕方ないことです。  では、残りの5%は何によるのでしょう?   割合ではなく、わかりやすく説明するために、実数の人口で見てみましょう。出生動向基本調査の各年の割合を、それぞれ国勢調査における年齢別人口と掛け合わせて算出した「年齢別恋人のいる独身人口」が以下です。

 これを見ると、特に18-24歳という若い年代では全体的に「恋人あり」の人口は男性より女性の方が多くなっています。では、その分25歳以上では男性が多いかというと、確かに、25-29歳では1990年まで、男性の方が多く、これは「20-24歳の女性と25-29歳の男性のカップルが多かったのだな」と推定できるのですが、1990年代以降は、25-29歳での恋人のいる男女人口は同等で、一体18-24歳の女性のいう「恋人」とはどこにいるんだろうという話になります。

 結論からいえば、これは、一部の恋愛強者による二股、三股交際です。加えて、既婚男性が独身と偽った交際もあるでしょう。そもそも「恋人がいる」かどうかはあくまで本人の主観判断ですから、現実としてそういうことは起き得ます。女性からすれば「なんで二股とかするわけ?」と思ってしまうかもしれませんが、独身である以上法的な縛りはありませんし、そもそも呼吸するように恋愛をしてしまう恋愛強者とはそういうものです。

■恋愛強者による複数交際の影響

 問題は、この恋愛強者の二股以上の複数交際が、1995年以降増えたことと全体の初婚数が減ったこととが見事に対応している点です。つまり、1980年代までの皆婚時代は、モテる男ほど早々に既婚者になってくれたために、残りの7割から続いて3割の恋愛強者に昇進し、それがまだ結婚して……を繰り返すことで、結果よい「恋愛循環」が完成していました。

 しかし、1995年以降、恋愛強者はいつまでも強者のまま独身であり続け、恋愛を謳歌するようになったがために、残りの7割が割を食う結果となり、結婚のチャンスすら得られなくなったと考えられます。

その証拠に、年代別の男性の年齢別初婚数を見ると、その傾向が如実にあらわれています。  20-24歳では1995年をピークに減少していますし、25-29歳も遅れて2000年を境に急減しています。1995年時点に20-24歳だった恋愛強者男性が29歳になっても30歳になっても未婚のまま「強者の無双」状態を繰り返していると考えられなくもないでしょう。  もちろん、ここには恋愛力だけではなく、経済問題も複合的にからんできます。女性は、恋愛するだけなら相手の年収など気にしませんが、こと結婚となると話は別です。恋愛強者の男性だけが好き勝手やっているというわけではなく、女性が結婚対象として相手を見たときに「この人ではない」とフラれてしまう「モテるけど経済弱者」もいることでしょう。

マッチングアプリは救世主ではない  

昨今、マッチングアプリなどでの婚活が、今の婚姻減の救世主かのようにもてはやされていますが、私はそうは思いません。確かに、そうしたサービスでの初婚割合は増えていますが、とはいえ全体の初婚数が激減している中で割合を増やしているだけです。  

もっといえば、マッチングアプリは「街のナンパのデジタル版」でしかなく、リアルでモテる人だけが相手を見つけられる代物です。恋愛強者からすれば、わざわざ街まで出かけてナンパせずとも、自室のソファの上で次々とアプローチができるのだから便利この上ないツールでしょう。

 恋愛強者が循環せず、30歳を過ぎても、下手すれば40歳になっても、「独身のまま」恋愛強者に居座り続けることで、恋愛強者の婚姻率も減るだけではなく、順番を待っている残りの7割にはいつまでも出番が回ってこないという残酷な展開に陥ります。  

これが、今の日本で中年独身男性が増え続けている「身もふたもない現実」なのではないでしょうか。

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